ある一般産業機械装置メーカの I 社長と
弊社小川との会話内容抜粋(第11
回)です

・・・第10回から続きます
―― 「化石」の時代はなぜ生まれたのか? ――
I 社長 おひさしぶりです。ビジネスの具合はいかがですか?
小川
一時よりはやや上向傾向ですが、依然として低調です。この不況は弊社にとっては「順風」であると考えていたのですが、少し様子が違うかな? と思う今日この頃です。
I 社長
「化石の時代」はこの不況の大波に洗われて、直ちに大改革が始まるとの持論が少し揺るぎ始めましたか?
小川 決して読み違えているわけではありません。基本的な分析と今後の進むべき道は間違っていないと今でも確信しております。 そこには一般産業機械業界の置かれている環境条件が大きく影響しているのではないかと考えています。
I 社長 以前の対談でも、そのあたりについては触れられていたと思いますが、その辺をより「わかりやすく」話してもらえますか?
小川 以前、お会いした時は現在の一般産業機械分野は技術的には
「化石の時代」
にいるとの主旨で話しましたが、 今回は
「なぜ化石の時代がつづいてきたのか?」
を「わかりやすく」話させてもらいます。
始めに、その理由を挙げて、順次説明させていただきます。

1.専用機ゆえに広域市場が存在しなかった → 価格・性能競争が極めて少ない市場(競争原理が働かない市場)

2.多くの専用機はON/OFF制御で「事足りていた」 ← リレー・シーケンスの延長線←省力化

3.ユーザ要求に対するメーカの対応の良さ:2大メーカの存在が寄与していた。「痛い所に手が届く」存在になっていった。(空圧メーカとPLCメーカ)の存在

4.サーボメーカの怠慢と市場差別化:電動化・サーボ化が遅れた理由

I 社長 おっしゃられている4項目については、「その通り!」 と いう部分と 「そうかな?」 と いう部分があります
小川 これらは私の「独断と偏見」の産物であり、かつ、業界のなかでは「非常に数少ない少数派」の意見であることは間違いではありません。
先見性が強ければ強いほど「小数派」になるわけでして、メジャーな考えとはかなり距離があるものであると勝手に考えて、 自分なりに折り合いをつけています。
I 社長 それはかまわないわけですが、ここで各項目について「みっちり語ってもらいますと、とんでもない時間がかかり、 落語の「寝床」のような状況が現実におこりかねません
小川 「寝床」などがでてくるとはさすがと言うか? 多分わかってくれる人はほとんどいないということで「楽屋の内輪噺」になりかねません。
後日、私がメモにまとめてお送りしますので、時間がある時の読んで下さい
I 社長 承知しました、期待して待っております
メモ 1.専用機ゆえに広域市場が存在しなかった → 価格・性能競争が極めて少ない市場のとおりだと思います

特定顧客(発注元業種)からのオーダに基づき商売が成り立つ業界で、必然的に開けた広域市場が存在する可能性は極めて低かった。

その上に、1955年頃(昭和30年)以降、日本経済は、基本的に、右肩上がりの拡大が続いた事で、専用機の仕事も増え続けたので、 他に(特定顧客以外に)市場を探すことを行う必要がなかった。

つまり、護送船団方式の市場原理・管理が普及する素地が十分にあり、また、それが実行され、業界体質が徐々に、 弱いものになっていった

生産拠点が日本国内にある業種ではまだ影響が少ないが、台湾、中国等に生産が移った業種で、かつ、現地資本の企業の場合、 1号機は日本から購入するが、2号機以降は現地企業の模倣品が納入され、使用される例が増加しつつ有り、日本国内の専用機屋の仕事量は減少し続けております。

これを避ける方法は、「モノつくりの革新」に基づいた専用機械の「技術の革新」しかありません。これを認めて、新しい動きをスタート出来るか、 出来ないかで、国内の専用機業界の盛衰が決まると考えています。

キーワード

技術的には「寝ている業界」であるが故に、
目を覚ませば簡単に革新できます


2.多くの専用機はON/OFF制御 ← リレー・シーケンスの延長線 ← 省力化

電磁弁のON/OFF制御(「ぶっつけ動作」、「おっぱなし制御」)

従来の専用機は、省力化でスタートし → 「タクト」の短縮が唯一の指標であった。従って、高圧の空気源 → 高速搬送・移送がメインであり、それで事足りていた。

その結果
1.衝突動作があたりまえの「モノつくり」が広く採用されていった
2.振動・騒音は工場設備ではあたりまえになっていた
3.エネルギー消費・効率は問題にされなかった
4.生産物の性能・品質(出来栄え)は2次的な位置付けとなっていった
数が出来る機械が「 良い機械」であった

キーワード 制御して、かつ、高速で、商品グレードを上げる
今後の専用機の必要基本性能

単純な「数作り機械」では通用しなくなる時代がそこまで来ている

3.ユーザ要求に対するメーカの対応の良さ:2大メーカの存在が寄与していた

1)空圧シリンダ(SMC) 多品種対応 短納期対応
2)シーケンサー(三菱) 各種ユニットの製作対応

上記2社の企業努力が専用機業界を下支えし、「空圧・ラダー全盛の時代」を作り出したと考えられます。その功績は大であることは明白です。しかし、現在になると「その弊害」がどうしても見えてきてしまうことも事実です。ここは大人の知恵で適材適所で住み別けることが自然の流れであると思います。

専用機業界が
油・空気・電気(サーボ)を上手に使い別ける事が出来れば世界の先端を走る事が可能な次世代専用機像が見えてくると考えます

.サーボメーカの怠慢と市場差別化:電動化・サーボ化が遅れた理由

1)サーボ職人しか回せないサーボ
サーボメーカの未熟な技術によるものです。
大量使用ユーザには無償で技術者の派遣をどのサーボメーカも行っています。
専用機は「一品料理」が多く、技術者費用の回収が不可能、よって「面倒をみない」ことが一般に行われており、今も続いています。

2)高機能専用コントローラの恩恵は量産可能業界向けの専売特許
NC工作機械、多関節ロボット(自動車向けスポット溶接)、半導体組立機

3)「専用コントローラのソフト開発費が専用機向けには負担できない」ことも大きな理由
I/O制御がメインの低機能コントローラ(PLC、ラダー)を使用することが、諸般の理由から「やもうえない」選択であるとも言える

4)油・空圧のエネルギー単価が安価であった
省エネなどは全く考慮する必要はなく「エネルギー無尽蔵」の時代を背景として成長・発展してきた専用機業界であった。
ここに来て、「省エネ」「グリーン・ファクトリー」「エコ」・・・・・の動きが世の中の注目を集めており、空圧オンリーでこのまま進めななくなってきております。
「空圧 → 電動シリンダ」に交換するだけで、単純に1/3〜1/10にエネルギ削減が可能です。

上記の理由により 50年間 基本技術が変わらない、特殊業界が発生し、成長してきた

これが「化石」と言われる理油です

それゆえに、改善・改良・コストダウンは「やるつもりになれば」簡単に・容易に実施できる

つまり、「取りシロ」の大きい業界・業種であるとも考えられます

終わり・・・