ある一般産業 機械装置メーカの I 社長と
弊社小川との会話内容抜粋(第7回)です


・・・第6回から続きます


―― バッテリーレス メカシリンダ(電動シリンダ) ――
I 社長 最近、うちの若い技術者がダイアディックの「バッテリー レス メカシリンダ(電動シリンダ)」を購入しました、
理由を聞くと、バッテリーを使わないアブソリュート方式で、全く問題ない、と言っていました
まず、「アブソリュート」と言えば、今までは「バッテリーバックアップ」方式ですよね
ダイアディックは「バッテリーレス アブソリュート」と、従来の常識に反する言い方をしていますが?


小川
その若い技術者はきっと切れ者かと思いますよ、大切に育てて下さい

話すと長いのですが、今、業界の中でわたしほど、アブソリュートに携 わってきた時間の長い人間も多くはないと思います
ですから、良いところも悪いところも熟知しているつもりです

まずは、アブソリュートシステムの技術推移について、簡単に説明させて ください





年代は多少いいかげんですが、1980年後半から1990年初めにかけて、自動車 生産設備のスポット溶接現場で 大量に多関節ロボットの導入が行われました。この時に、サーボモータにアブソリュートセンサーが初めて採用されましたが、 この時のアブソリュートセンサはレゾルバと歯車を使用した純機械式なものでした。
製造メーカは2社でそのうち、1社はわたしが在籍していた会社です。
これは、信頼性が非常に高く、自分で言うのもなんですが「スグレモノ」のセンサーでした。ただ価格の高いのが「玉にキズ」ですが

バブル崩壊まではこのセンサーが使用されましたが、崩壊後、設備費用の圧縮圧力に耐えきれず、インクリメンタルのエンコーダを 電子回路のカウンターでカウントし、そのカウント値をメモリに記憶し、バッテリーでバックアップする簡易アブソリュートセンサーが主流となり、 現在まで続いていると思います



I 社長 そうですよね、わしたも、現在のアブソリュートセンサはバッテ リーでバックアップするということは知っていますが
バッテリーレスにすれば、確かにバッテリー交換はなくなります




小川
実は業界内部では、バッテリー交換の他 に、いろいろ問題が出てきておりまして、バッテリーバックアップ方式が始まった当初から、 何とかしてバッテリーを外せないか? というトライアルが数多く行われています
当然といえば、当然なんですが

わたしらも当然、トライアルをしていました
そのうちのひとつは、前職の時ですが、「磁気バブルメモリー」を使用したセンサーで、当時の業界新聞ではかなりの話題性を持って 取り上げられた経緯があります。
結局、原理試作だけに終わり、商品化はできませんでしたが

ダイアディック創業時にも再度、別な方法をトライしまして、現在の価格 の2倍くらいかければ、バッテリーを使用しないセンサーが 製作可能というところまでは開発を済ませています
とりあえず、この技術に関しては【特許取得】できましたが

バッテリー交換の他にバッテリーバックアップ方式の問題点を具体的に言 いますと、2つの問題があるとわたしは考えています
当然、人により、意見はいろいろとあると思いますが

1つは、バッテリーの充電、放電のトラブル
バッテリーの充放電は化学変化を利用しておりますので、どうしても、コントロールできない点が残りますし、使い方によっては注意が必要です

2つめは、超微小電流を扱うため、接触不良が避けられず、メモリバック アップ動作の不安定性が残ることでしょうか



I 社長
接触不良とはあまり聞いた事がないです が、問題になっているのですか?




小川 メーカと ユーザの公式見解ではこの点は明確にされてはいないと思います。
それには 理由がありまして、 初めからやってはいけないことをやって商品を製造販売しているから、ということが関係しています
わたしも前職では、バッテリーを使う限り他に方法もなく、やむおえずやっておりましたが



I 社長 もっと具体的に教えて下さい




小川 普通、多関節ロボットは、3〜5個程度のコネクタを介してロボットとコントローラ がつながれています。
このコネクタに使用されているコネクタの代表的なものに、キャノンコネクタがあります
このコネクタの最小保証電流値は
金メッキされた物で、1ミリアンペアです
金メッキ品で無いものには、最小保証電流値のスペックはありません

ロボットは金メッキ品で無いものを通常使用しておりますが、コネクタに 流している電流値は1ミリアンペアの1/50〜1/100、 10〜20マイクロアンペアーの電流をコネクタに流すわけです

これだけ悪い条件がかさなれば、通常何が起きても不思議はないわけです
但し、これを防ぐ対策がわかっていても、手が打てないという現実があります

湿式の水銀コンタクトは現在の環境下では使用できませんし、金メッキで かつ防振構造のコネクタは高価・・・と、どれをとっても実現性が極めて薄いものです




I 社長 なるほど、メーカでは手をこまねいているしか方法がないわけですね


小川 誤解があるといけないので、補足しておきますと、すべての関連メーカが「接触不良 のトラブル」を承知した上で、誤魔化して、 製造し続けているという訳ではありません

ご 存知のように、接触不良は大変見つけにくい不具合です

まじめに、不具合調査を進め行くうちに、不具合現象が再現しなくなることが多々あります。 その結果「不具合再現せず」という調査結果を出し続けている、正直なメーカも数多く存在していると思います

現象をつかんでいるメーカとユーザは全てを承知した上で、騒ぎを大きく しても得になりませんので、不良不再現で処理するしか方法がないわけです




I 社長 大人の知恵ですか?
たまには、必要ですよね



小川 そうとも言えます
わたしどもがバッテリーレスにこだわったのは、それくらいバッテリー が諸悪の根源になっていることを知っているからです


第8回に続きます・・・