あるユーザと小川のアブソリュートセンサについての雑談内容抜粋

「バッテリレス アブソリュート センサ」について(1)
ユーザ 小川さんは「センサー屋」出身であると、ある所から小耳にはさんだのですが、今日は「サーボ用のセンサ」について聞かせて下さい。
今まで、どのようなセンサを手がけてきました?
小川
いろいろなセンサを開発し、サーボモータと組合わせて商売をしてきました。
1975年頃
光学式のエンコーダで分解能は1000〜2000分割、8000パルス/1回転
1980年頃
ブラシレスサーボ用のブラシレス・タコジェネレータ(速度発電機)
1985年頃
レゾルバを用いた純機械式のアブソリュート・センサ
このセンサはスポット溶接用の多関節ロボットに大量に使用されました
1900年頃
バッテリ・バックアップ方式のアブソリュート・センサ、合わせて、バッテリ・レスのアブソリュートセンサ(これは、当時商品化に失敗し、発売されませんでした)
1995年頃
FA向けのサーボ屋をやめて現在の会社を始めましたので、センサー開発からは遠のいております
ユーザ 初めから、話して頂いたら時間がいくらあってもたりませんから、アブソリュートセンサ(以後、ABSセンサ)の話を聞かせて下さい。
実は、ABSセンサについては「おかしな話」をあるユーザから聞きました。
それは「位置信号に関係するアラームが発生したので、機械装置からサーボモータを外し、メーカに返却して不具合調査を行わせたが、 不具合再現せず」、結局【不具合不再現で良品】として返却されたと言うことで、品管の担当者は困っていました。 他にも同じような話を何件か聞いており、何かおかしいのでは?と、気になっているのですが、推測つきますか?
小川 いきなり「とんでも無いこと」を話題にしてきましたね。

大人の対応をするなら「そんな話があるのですか?」と、聞き流すべきと思いますが、忙しい中、時間を割いてくれたわけですので、 1人の純粋なセンサー技術者としての推論を述べさせてもらいますが、あくまで【推論】ですから、それがどのような結果をひきおこすのか?  それについては責任を持てませんよ、それで良ければ推論を話させてもらいます。

ユーザ
それ程、大変なことですか?
小川 あくまで推論、推定ですから聞き流してくれればOKです。

このバッテリ・バックアップ方式のABSセンサは純機械式のレゾルバを用いたセンサの後継機として、 1991年のバブル崩壊時に自動車製造ラインのロボット用サーボモータで大量に使用され始めました。

低コストを目的に生み出されたABSセンサで、コストは約1/2です。
内部構成は一回転内にインクリメンタル・エンコーダを用いた物とアブソリュート・タイプの物があり、両タイプとも、 電源オフ時でも外部バッテリでエンコーダとカウンタ回路を動作させ、パルス数をカウントしつづけるものでした

ユーザ それの何処が問題なのですか?
小川 1990年頃、一部の技術者からは、このバッテリ・バックアップ方式のABSセンサは根本的な問題をもっているので、商品化するべきではない、と言う意見もありました。

それを、経済的な理由と「皆で渡れば怖くない」と言う、全く技術を無視した考えで採用されていった経緯があると思います。

ユーザ 小川さんの話しでは、この問題は「起こるべくして起きている当然な結果である」と言っているような口ぶりですね

小川 簡単に言うと「やってはいけないことをやっていないか?」と、いうことです
ユーザ
それはなんですか?
小川 電気で「接触不良」という現象があることは知っていますよね。まさに、その現象が起きていると推定しています。

サーボ用のABSセンサは、キャノンコネクタと言う接点を信号伝送系の中に3ケ所から5ケ所持っています。少し電気用語が出てきますが、勘弁してください。

確か、コネクタの接触子が金メッキで作られた特殊なキャノンコネクタでは、その金メッキされた接点が保証している最低電流値は 1mAですが、ABSセンサで標準的に使用されているキャノンコネクタでは、最低電流値が規定されていません。

最低保証電流値に規定のない接点を使用して、1mAの1/50〜1/100の電流を、それも直列に接点を3〜5箇所入れて電流を流しているわけで、 まともな伝送が長期間実現出来たら、これこそ奇蹟であると言っても良いと思います。

ユーザ それは本当ですか?原因がわかっているなら何故、対応策を取らないのですか?
小川 原因は「接触不良である」と、公式に発言したメーカは私の知る限り1社もないはずです。

「接触不良」と認めても、対策の取り様がないので、つまり、対策にとんでもない金がかかり、非現実的な改善策になることが明白に解っているためです。

推測ですが、そのために、この種の不具合が発生した場合は「あらゆる評価試験をサーボメーカで実施し、不具合不再現」としてユーザに返却することが 公然と実施されているのではないでしょうか。


ユーザ
とんでもないことが起きているわけですね。
小川 これらの技術的な要因に全く気付かず、本当に「不具合不再現」と、信じているメーカもあると思っているのですが。
ユーザ ユーザやメーカの中に、「確信犯のグループ」と技術的に低レベルな「幸せな人達」のグループと、2つ存在するわけですか?
小川 またキツイ言い方をしますね。

無理もない点もあるので、一概にそのように言うのも気の毒な気がします。つまり、接触不良と言う事故は「電気の世界」では一番性質(たち)の悪い事故で、 接触不良が一度起きても、接点の「抜き差し」を行うと「正常に復帰」してしまうわけです。従って「幽霊」のような不具合で「なかなか捕まえにくい不具合」であるわけです。 「まじめに再現試験をやって、再現しない、迷宮入りした不具合」であると信じている人もいるわけです。

ユーザ それでは、現在のバッテリABSはどうしようもないわけですね。
これからも、接触不良であろうと考えられる不具合は、ある程度許容した上で使い続けるしかないわけですか?
小川 手がないわけではありません。

其の証拠に、弊社では原理的に接触不良を起こさない、バッテリレスABSセンサ付きのシリンダを発売しておりますし、近いうちに大幅にラインアップを拡大して供給させていただく予定です。

ユーザ その「接触不良問題」を解決したダイアディックさんのABSセンサと、現在主流のABSセンサに対策はないのか?小川さんの考えを教えて下さい
次回へ続きます・・・